弘前大学理工学部月刊ホ−ムペ−ジ2008年4月号企画

青森県東方沖の相似地震活動 (担当:理工学研究科附属地震火山観測所)

 青森県東方沖のプレート境界は大地震の発生域になっていますが,そこでは相似地震と呼ばれる地震も発生しています.この地震を調べることで,プレートの沈み込みの様子がより詳しくわかるようになってきました.

プレート境界地震とアスペリティ

 青森県東方沖ではこれまで,1968年十勝沖地震(マグニチュード (M) 7.9)や1994年三陸はるか沖地震(M7.6)のような大地震が発生してきました.これらの地震は「プレート境界地震」と呼ばれるタイプの地震です.その発生メカニズムは,太平洋プレートが陸域のプレートの下に沈み込むことによって陸域プレートが変形し,変形が限界に達して跳ね返ることによると考えられています.最近では,プレート境界に「アスペリティ」と呼ばれる領域を考えることで,プレート境界地震の起こり方がよりよく理解できるようになってきました.
 アスペリティ(asperity)とは,「でこぼこ」という意味の英語です.図1は沈み込む太平洋プレートを模式的に表したものです.茶色で表したアスペリティ部分ではでこぼこが多く,その他の境界部分はなめらかな状態をイメージしてください.プレートが矢印のように動くとき,なめらかな部分ではプレートが沈み込むことができますが,アスペリティでは陸のプレートと引っかかりが生じて陸のプレートが変形します.プレートの動きが続くと,やがてアスペリティ部分の引っかかりがはずれて急激なずれ(すべり)が発生し,陸のプレートが元の位置に戻ります.これがプレート境界地震です.プレート境界でのずれ(すべり)の起こり方に着目すると,境界がなめらかな部分ではゆっくりしたすべりが起こるのに対し,アスペリティ部分では固着と急激なすべりが起こります.図ではなめらかな部分を「ゆっくりすべり域」と表しています.
 図には大小のアスペリティが表されています.アスペリティの大きさは,地震の規模と発生間隔に関係します.大きなアスペリティは大地震を引き起こしますが,発生間隔は数十年以上です.小さなアスペリティでは短い間隔で小さな地震が発生します.

 

 
図1 プレート境界のアスペリティモデル.色の濃いアスペリティ部分では
プレートどうしの固着が強く,色の薄い部分では固着が弱い状態になっています.

相似地震

 2つの地震の波形が良く似ているときに,それらを「相似地震」と呼びます.波形が良く似ているのは,次の2つの条件を満たしているためです.一つは,2つの地震が同じ場所で発生することです.この場合,震源から観測点まで伝わる間に受ける影響(波の変換,反射・屈折,散乱など)も同じになります.もう一つは,地震波を生ずる断層のすべりが同じように起こる,もう少し詳しく言うと,断層の向き・傾斜・すべりの方向が同じであるということです.
 では,相似地震とアスペリティはどのような関係にあるのでしょうか?相似地震は,ゆっくりすべり域内の孤立したアスペリティが繰り返しすべることで発生すると考えられています.すべりが同じ場所で同じように起こることから,2つの地震が上記の条件を満たし,相似地震となるわけです.アスペリティでのすべりは周囲のゆっくりすべりに追いつくように起こりますので,相似地震の活動を調べることで,ゆっくりすべりの起こり方が推定できることになります.

相似地震の検出

 相似地震は2つの地震波形の相関を調べることによって検出します.図2を基に説明します.まず,震源が近い地震の組を選び出します.図では地震1〜5が選び出されたとします.次に,各地震の組について波形の相関を計算します.図では相関が高かった地震の組を赤い線で,相関が低かった地震の組を灰色の線で結んで示しています.観測点Aでは地震2と3,地震3と5の波形の相関が高く,観測点Bでは地震2と3,地震2と5の波形の相関が高かったとします.最終的には,両方の観測点で波形の相関が高かった地震の組(地震2と3)を相似地震と見なします.実際には,東北地方北部の6観測点において,P波からS波までを含む部分の波形について相関係数を計算し,2点以上の観測点で相関係数が0.95以上となる地震の組を相似地震と見なしました.ある相似地震の波形の例を図3に示します.相似地震の波形はこのように極めて良く似ています.
 
 
図2 相似地震の検出.波形の相関が高い地震の組を選び出し,
複数の観測点で共通して相関が高いものを相似地震と見なします.
 
 
 
 
図3 相似地震の波形の例.図4のグループCの相似地震について,観測点UTBとKJNHでの
波形を示します.波形には1 Hz 〜8 Hzの帯域フィルターをかけています.

相似地震の分布

 2004年〜2006年の期間に発生した相似地震の震源分布を図4に示します.○が相似地震で,色は震源の深さを表します.相似地震は日高山脈南部〜浦河沖〜下北半島北東沖〜八戸沖〜岩手県沖合と沿岸の領域にA〜Gの集団を形成し,全体としては帯状に分布しています.震源の深さは30〜70 kmで,断面図を見ると,全てプレート境界付近で発生した地震であることがわかります.プレート境界付近では多数の地震が発生していますが,相似地震となるのはそのうちのごく一部です.
 図4の平面図に,大地震のアスペリティ(破線)と1961年〜2003年の期間に発生したM6以上の地震(☆)を描き加えたものが図5です.相似地震はアスペリティ内部ではほとんど発生していません.相似地震はまた,浦河沖や下北半島北東沖などの一部を除いて,M6以上の地震の震央ともほとんど重ならずに分布しています.従って,相似地震はM6以上の地震のアスペリティとは棲み分けて分布しているように見えます.このことは,相似地震は孤立したアスペリティでのすべりの繰り返しであるという先の解釈と調和的です.
 
 
図4 2004年〜2006年の期間に発生した相似地震(○)の分布.
丸の色は震源の深さを表し,A〜Gは相似地震のグループ分けを示します.
+印は通常の地震です.オレンジ色の枠内の地震の東西断面図を右に示します.
 
 
 
 
図5 2004年〜2006年の期間に発生した相似地震(○)及び
1961年〜2003年の期間に発生したM6以上の地震(☆)の震央分布と,
大地震のアスペリティ(破線)の分布.+印は通常の地震を表します.

ゆっくりすべりの時空間分布

 相似地震がアスペリティ周辺でのゆっくりすべりに追いつくように起こっているとすると,相似地震の断層のすべりを調べることで,ゆっくりすべりに関する情報が得られることになります.そこで,図4のA〜Gの相似地震のグループについて,断層のすべり量を求めてみました.すべり量の推定には,地震のマグニチュードとの間に経験的に求められている関係を利用しました.図6は各グループ内の相似地震の積算すべり量の時間変化を示したものです.階段状のグラフが上に動くところが相似地震の発生を表し,階段の高さがすべり量を表します.この図を見ると,どの領域でのグラフもほぼ同じ傾き(約6 cm/年)をもっていることがわかります.グループAの図に示してある8 cm/年の傾きの直線は,太平洋プレートと陸域プレートの相対変位の速さを表します.相似地震による平均的すべり速度(6 cm/年)は,プレートの沈み込みにほぼ見合う量であることがわかります.細かく見ると,グループBでは相似地震の発生間隔が短くてグラフが直線に近いのに対し,グループAでは相似地震が間欠的に発生するというように,相似地震活動にはグループごとの特徴もありそうです.
 
 
図6 図4のA〜Gの各グループ内の相似地震の積算すべり量の時間変化.
相似地震のマグニチュードから換算したすべり量を,グループ内の
相似地震数で割って平均化したものを積算した結果を示します.

おわりに  

 ここでは,2004年〜2006年の期間の青森県東方沖での相似地震活動からわかったことを紹介しました.相似地震の震源分布は孤立した小アスペリティが存在する領域を表しますので,そこではプレート間の固着があまり強くないと考えられます.逆に,相似地震が発生していない領域ではプレート間の固着が強く,将来の大地震を起こす領域になる可能性があると推測できます.また,相似地震による断層すべりの時間変化から,ゆっくりすべりの時間変化を推定することができます.大地震の発生前にはゆっくりすべりの状態が時間的にも空間的にも変わるかもしれませんので,相似地震活動をモニターすることで,大地震の発生を予測できるようになるかもしれません.しかしそのためには知らなければならないことがまだ多くあります.例えば,アスペリティ周辺でのゆっくりすべりがどの程度の量になると大地震の発生に至るのかなどです.これらの点については今後とも研究を続けて行く予定です.

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